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7 july

7月15日

7月15日

   

167/休憩ルーム。まりねと颯太がそこに坐って話をしている。
まりね「──前からね、駿河さんの漫画見させてもらって。ああ、この人凄いなあ、って思ってたんですけど、あんなにかっこいい絵をあんなに早く、迷いなく描けて、もう......本当に凄いなって」
まりね「なんかそれを見てたら、わたしなんて全然だな、ホントにここにいてもいいのかな、って思っちゃって......えへへ」

寂しそうに笑うまりね。
まりね「したら、こう、うーんって思っちゃったんですよね」
颯太「そんな事ないですよ、まりねさんは、僕から見たら凄いんですから」

まりね、笑って首を傾げる。
まりね「あ、ありがとうございます。でも、私は......私自身は、私が駄目な事を知ってるから、誤摩化せないんです」
まりね「だから」

自分に言い聞かせる様に一人ごちるまりね。
まりね「駿河さんもきっとやってる様に......私も私に認めてもらう為に、出来るものを描くしかないんですよね」
颯太「......でも、どこまでやったら、自分の事を認めてあげられるんですか」
まりね「どこなんでしょうね。私にも解りません」
颯太「そんなの、果てしないじゃないですか」
まりね「うーん、そうですね。でも」
まりね「果てがなくてもいいから、描くんです。そうすれば少なくとも、私は私に言い訳しないで、生きて行けますから」

それを聞いていた颯太が、絞り出す様に語り出す。
颯太「まりねさん、あんなに人気の『フォーゲルシュバリエ』の挿絵で......他にも色々やってて......雑誌とか本で見ない日がなくって」
颯太「僕から見たらまりねさんは、手が届かないのが当たり前の凄い人で......でも、そんなまりねさんでも果てしなくて見えない、なんて言うなら、そんな、入り口にすら立ってない僕なんか......どうしたらいいのか、解らない」

まりね、少し小首を傾げて。
まりね「でも、それは果てがなくても楽しい事なんですよ。辛くて不甲斐なくて泣きたいけれど、でも、やっぱり楽しい事なんです」

黙って聞く颯太。
まりね「もし、そうじゃない時が来て、辛さが楽しさを上回ったら......たぶんその人は向いてなかった。冷たい言い方かもしれないけど、そういう事なんでしょう」

まりね、当たり前のことを言う様に笑う。
まりね「わたしにもし、そういう日が来たとしたら、悲しいより悔しいです。凄く悔しい」

颯太の脳裏にセツナの事が過(よぎ)る。書き込みのフラッシュバック。
颯太「......僕は」
唇を噛み締める。「──やっぱり、僕は」

目を上げて、まりねを見つめる颯太。
颯太「あの、まりねさん、ありがとうございます」

まりねはきょとんとした後、慌てたように照れる。
まりね「ご免なさいごめんなさい、偉そうな事言えるような身分じゃないのにっ!」
颯太「そんな事ないです、本当にありがとうございます。なんだか──もやもやしてたものが、はっきりしました」

まりねは笑う。
まりね「わたしも。人に言えて、なんだか少しすっきりしました。ありがとう、颯太さん」

作業場に戻ろうとする颯太。まりねがふと、呼び止める。
まりね「颯太さん、偉そうな事ついでです。やるって決めたら、あとはやるだけ。そう考えると、気が楽でしょう?」

颯太は頷く。

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