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レクリエイターズ ネイキッド

7 july

7月24日

7月24日

   

183/六本木の高級マンション。真鍳は悠々自適に暮らしている。風呂上がりで白い肌になぜか一万円札がぺたぺたと張り付いている。バスタオルは巻いておらず、肩にかけてるだけの全裸。冷蔵庫一杯にびっしり揃った牛乳パックの一本を取り出すと、後ろ足で扉を閉め、風呂上がりにごくごくと飲み干し、ぷはあ! と息を吐く。
真鍳「風呂上がりの一杯! いいねえほんと!」

ごくごくと飲み干し、ころんとパックを捨てると、身体に付いた一万円札を剝がして丸め、無造作に捨てる。
真鍳「札束風呂、やってみるとそう面白いもんでもなかったなあ、ちょっぴりショッキン。札束ん中でただ埋まっててもつまんないから、本格的にお湯入れてみたんだけど。違うかあ~~」

乱暴に身体を拭き、その度に濡れた一万円札が破れ、ぺたぺたと床に落ちる。
真鍳「こういうのは、やっぱ、お金に困ってる人の前とかでやらないと駄目だよね。秘密で楽しむなんてのは、ナルシスチックな自己満足で終わっちゃうもの。これは良くない、うん良くないよ。向上心の欠落ってのは身を滅ぼすよ、うんうん!」

普段の喪服の様な服に着替えてテレビを付け、ニュースを見遣る。紛争のニュース。
キャスター「......次のニュースです。先月より軍事演習の続いていた......国の軍事境界線で...発砲......衝突との情報が......緊急の国連総会で、両国は互いに正当な防衛であると......非難の応酬を......」

面白いバラエティーを見てる様に、げてげてと笑う真鍳。
真鍳「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ! いいな、ああ、いいなあこの世界。わたし、この世界気に入っちゃったな。神様も死んじゃったし、元の世界よりこおっちの方が百万倍楽しいんだなー。センソーとかフンソー、ドッカドカやってるとこなんか、マガネちゃんにはうってつけ」
真鍳「そうすればマガネちゃんはもっと活躍出来て、そして世界はもっともーっと、ハッピーになると思うのだね。マガネちゃんが惰眠を貪っていては、世界の損失なのだ!」

笑いが張り付いたまま、目が邪悪に細まる。
真鍳「セカイが損失? かな? ま、どっちでもいーやだけど」

立ち上がって二本目の牛乳を取りに冷蔵庫へと向かう真鍳。
真鍳「そだ! こんどセンソーやってるとこ、ヒカヤシにいこーっと。明日は本屋さんに行って、旅行ガイドでも買うとしましょーかね。これだけお人良しと馬鹿が揃ってる世界なら、マガネちゃん、世界の果てまで行けちゃう気がしますう、うっふっふ」


184/と、不意に電気が落ちる。真っ暗な部屋は外の街灯りと月光に照らされる。
声「少し見ぬうちに、こんな豪奢な邸宅に住む様になったとはな。余程この世界と貴様は、相性が良いと見える」

目を細めて振り向く真鍳。

そこに立つのは銀色に光る甲冑を着た女騎士だ。

馬鹿にした様に気安い調子で返答する真鍳。
真鍳「ああ。熱血騎士ちゃん。おげんこ? 来るなら来るって言ってくれればさあ、ケーキとか焼いてあげたのにい、んもうー」

冷たい目付きで見下ろすアリステリア。
アリステリア「家事をこなす様には、まるで見えぬが」
真鍳「だって嘘だもん」

アリステリア、相手にせずそのままテラスのガラスを背に、逆光の中静かに立っている。
アリステリア「......真鍳。今日は其方に、助力を乞いに来た」

真鍳、少し驚く様な顔をしたあと、目を細めて笑う。
真鍳「あらあらへえへえ。騎士ちゃんこそ、暫く合わないうちに随分と殊勝になったものだねえ。どーゆう風の吹き回しかな? それとも」

意味ありげな笑みを浮かべる真鍳。
真鍳「......風が吹いてる様に、見せてるだけかな?」

アリステリアは動じない。以前のアリステリアであれば狼狽の一つも見せたかも知れないが、彼女もまたこの世界に来て、設定の規格外になりつつあるのだ。
アリステリア「──どちらであっても、愉しめれば其方はそれで構わない。相違ないであろう」

真鍳、探るかの様に笑いを止めて暫くアリステリアを眺めるが、また嘘っぽい笑顔に戻る。
真鍳「まっ、それもそーか」

牛乳パックを取り出して、冷蔵庫を再び閉める真鍳。
真鍳「騎士ちゃんは、なんか飲む?」
アリステリア「遠慮する」
真鍳「ですよねー。まあ、実際飲むって言われても困っちんぐだけど」

パックの口を開け、正面からアリステリアを見据える真鍳。
真鍳「なーんか、雰囲気変わったにゃあ。なんていうか」
真鍳「ひと、っぽくなった」


185/アリステリアはその言葉に介さず、主導的に話を進める。
アリステリア「話をしよう。其方は言葉を使って法則をねじ曲げる、そうだな?」

真鍳、相変わらずアルカイックスマイルで。
真鍳「で?」

アリステリア、じっと睨んで。
アリステリア「其方と同種の能力を使う女を、一人知っている。とは言え、其方の様な縛りは存在せず、野放図に能力を解放出来る化物の様な女だ」

真鍳、相変わらずアルカイックスマイルで。
真鍳「で?」
アリステリア「私は、其方に問いかけをしたいと思う」

真鍳は少し意外な返答に眉を上げる。思いもよらない反応だ。
アリステリア「其方が総ての事態を『面白くする』なら、どう仕向ける?」

わずかに沈黙が二人を支配する。

真鍳、少しだけ真空の顔になってアリステリアをじっと見た後、また口元を歪めて笑みを浮かべる。
真鍳「騎士ちゃんの望みじゃ、ないんだねえ。ふうん」
アリステリア「望んで素直に従う、其方ではあるまい」

真鍳、また薄く目を閉じて笑う。どこかぞっとする様な、普段のおちゃらけた目付きではない、理知的で怜悧な目付きだ。
真鍳「あっ、そ」

立ち上がると。
真鍳「そうねえ──ま、真鍳ちゃんはへそ曲がりだから。でも」

振り向いて、にかっと笑い。
真鍳「楽しんでくれと言われちゃあ、ちょっと疼いちゃうよねん。ラフ&エンジョイが私の座右の銘だからなのでして、うっふっふ」
アリステリア「そうしてくれると有り難い」

くつくつと猫の様に笑う真鍳。
真鍳「ほんとにそうかな? 有り難いかな?」
真鍳「誰に何をするか。何に味方するか。誰を引きずり下ろすか。それは今後の気分次第。つまりその面白い事ってのがだね、騎士ちゃんに利する事かどーかも、蓋を開けるまで騎士ちゃんには解らない。開けてびっくり玉手箱! そーゆう事も含めてのエンジョイなのだよ、マガネちゃんのお愉しみは」

アリステリアは黙って真鍳を睨みつけている。しかしそこから引き出せそうなものは何もない。振り向き、窓から出て行こうとするアリステリア。
真鍳「ありゃ? もうお話はおしまい?」
真鍳「なんだー。もう少し食い下がったり、何をすんのか問い詰めたりすると思ったんだけど。淡白だねえ、騎士ちゃんは」

アリステリア、ベランダに踏み出し。
アリステリア「......せいぜい面白くしろ。それだけが私と其方の、合致する目的だ」

真鍳は再びふふ、と笑うと。
真鍳「やっぱり、ひと、っぽくなったね騎士ちゃん。さっきまではねえ騎士ちゃん、ほんとは貴女で一遊び、と思ってたんだ。アナタからかい易いし、すぐにアツくなるし」
真鍳「けれども、だね」

険のある感じを含んだ、嘲笑的な笑いを浮かべる真鍳。
真鍳「──......今日の騎士ちゃん、とくだんに面白かったよ。それに免じて、話だけは承ってあげる。くふふふふ」

何も言わずに窓から出て行くアリステリア。

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