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8 august

8月22日

8月22日

   

248/颯太「答えが一つなら......答えるのは楽なんだ。それならきっと、悩む事でもないだろうから」

少し寂しそうな顔をして、いらついた様な顔をして、困った様な顔をして、颯太は真鍳を見る。その顔は言葉を選ぶ様な、選ぶべき言葉のない様な、そんな表情だ。
颯太「......解らないんだ。どう言うのが正しいのか」
颯太「君の言う通り、自分の為かも知れない、世界の為かもしれない。シマザキさんへの、罪滅ぼしの為かもしれないと思うし、回りで僕を助けてくれた松原さんやまりねさん、セレジアさんやメテオラさん──......そういう人達に少しでも力を貸したいからかもしれない」

真鍳、眉毛をハの字にして口を歪める。
真鍳「自分で自分のやってる事、解ってないのかな? 颯太君は」

颯太は真鍳を見返して、静かに首を振る。
颯太「ううん。分かってないけど、でも、分かってる」

真鍳、笑いを止める。細い目が颯太を伺う。
颯太「それは無駄な事なのかもしれないし、辛いだけなのかも知れない、でも」

颯太は吐き出す様に、呟くように言う。
颯太「そこに意味がなくったって構わない。理屈なんてどうでもいい。ただ、どうしても──」
颯太「僕も、シマザキさんの様に......形にせずに、いられなかった」

真鍳は笑いもしない無表情で颯太を見る。虚無の表情。颯太もその視線に、空虚に飲み込まれない様に見つめ返すが、そこに虚勢はない。真鍳との通話のラインを信じているかの様に、ただ見つめている。
やがて、目を伏せて僅かに悲しそうに呟く颯太。
颯太「僕は......シマザキさんから求められたときに......そんな気持ちを分かち合いたかった。分かち合うべきだった。今はそう、強く思う」

その言葉を聞いた真鍳、再び、真鍳の顔に表情が──嘘くさい笑みの表情が戻る。
真鍳「キミ」
真鍳「キミはその為に、何を差し出すつもり?」

ふふふ、と小さく笑う真鍳。
真鍳「キミ、そのなんだか解んない自分の気持ちの為に、キミの欠けてるものを埋め合わせて貰う為に──何をしてもいいとさえ、思ってるよね?」
真鍳「君だけの宝物まで、そのダシに使うなんてさあ」

颯太、目を見張る。

颯太が気付いた事に満足げな真鍳、再び含み笑いを浮かべる。
真鍳「悪党だなあ? くふふふ。私と同じ。人を人とも思わない、怪物だ」

颯太、少し真鍳の顔を見ると呟く様に言う。
颯太「それでいいよ」

真鍳、笑いが消え、颯太を見る。
真鍳「え?」
颯太「それで全然構わない」
颯太「悪いとかいいとか、そんなの、別にどうでもいいんだ。もしそれが叶うなら、他の事なんてどうでもいい」

真鍳の目が白目ぎみにぐるんと回り、少し惚けた様な表情になる真鍳。
真鍳「──ふう」

小さい溜め息をつく。目を細めて、鼻で笑う。押し殺した様な笑いは、広がっていく。
真鍳「──ふうううん」

何かを振切った様に、今までの話がなかったかの様な振る舞いで話し始める真鍳。
真鍳「でも君──そんな悪い願い事、成就するなんてほんとに思ってるのかな?」
真鍳「難しいね、そういうのは。真鍳ちゃんは、そんな事は叶わないと思うのだけれどもね?」

颯太は相変わらず、むきにもならずに淡々と答える。
颯太「叶わないかも知れない。でも、そんなの、僕が知ったこっちゃない。本当にそれを決めるのは」
眼下の大群衆、その光るサイリウムを見つめる。
颯太「──この人達なんだ」
真鍳「ふうーん」

再び挑むように笑いながら颯太に語りかける。
真鍳「またまたあ。バカバカしいな、颯太くん。観客なんていらないよ? 認めてもらわなくってもいいじゃん。その熱量さえあれば、それはそれで別にいいんじゃないかな?」
真鍳「世界にはそーゆう人だって居たよね、確か? 誰にも見せない作品を、ただ自分の為だけに書きまくって死んでった人。そう考えたら、あながち無理じゃないんじゃないかなーと、そう思うのだよね、マガネちゃんは?」
颯太「......その人だって、結局みんなに見て貰ったからこそ、作品は残った。『承認力』は絶対の鍵だ。鍵を無視して扉は開かない」

真鍳、口が水瓜の様ににいいいいっと切れ上がる。颯太に聞こえない様な小さな声で呟く。
真鍳「──まず一つ」

指が楽しそうに踊る。紙袋からパラフィン紙に包まれたホットドッグを取り出して、くしゃくしゃとその包み紙を剥いて口に頬張る。もっぐもっぐと食べながら喋る真鍳。
真鍳「じゃ、次いこっか」
真鍳「君のやろうとしてる事だけど──そんな物、出来る訳ないじゃん。どこまで行っても、それは嘘であって現実じゃない。結局は只のまがい物。当然だよね」

ポケットから何かを取り出す。鉱石だ。目の前でペンダント状になったその鉱石を振る真鍳。
颯太「──これは......黄金──?」
真鍳「ざあー、ん、ねん」

ぱっと颯太の前から取り上げる。
真鍳「これはね、パイライト。黄鉄鉱って言うのだね、硫酸を作るくらいしか使い道のない、つまんない鉱石。別名──」
くくく、と笑って。
真鍳「......馬鹿の黄金(フールズ・ゴールド)」
目を細めて颯太を見る。ホットドックの残りを口の中に押し込む。口の端に付いたケチャップを、妙に艶かしい動作で舐めとる。
真鍳「見る人が見たら金塊に見える。追い詰まったり欲を掻いたりしちゃってる奴にはより、らしく見えるのだねえ。でも、どこまで行ってもこれは金じゃあない」
真鍳「ま、なんでこれを見せたかっていうとだね。君が作ろうとしてるのも、そういう類いのものなんじゃないかな? 君は神様かも知れないけれど、キミの為に力を貸してくれる──全知全能の神様はいない」

詰める様に話を進めていく真鍳。
真鍳「キミが考えてる様な、この世界と同じ質量のレイヤーを重ねている『被造物』。マガネちゃんが思うに、作る方法は一つある。ねえ? 聞きたい? ん?」

いたずらっぽく颯太を見遣る真鍳。

不審げに真鍳を見る颯太。どう対峙したらいいのかを、慎重に考えてる風だ。

真鍳はその様子に目を細めて次の言葉を繋ぐ。
真鍳「ほんとにお馬鹿さんで、お真面目さんだなあ、颯太くんは」
真鍳「ハナから全部嘘でいいのだよ」

に、と笑う真鍳。

真鍳は指をくるくると回し、饒舌に喋り続ける。
真鍳「レイヤーを重ねる事なんか、超どーでもいい。重要なのは──見せかけを造り出す事。それこそが、颯太きゅんが死力尽くしてひーひーやんなきゃいけない事なんじゃないかしらん。と、マガネちゃんは思うのだけれどね?」

はっとして真鍳の目を見る颯太。
真鍳「そ、前もキミに言ったけれど、私と君たちは似た者同士、目的の為に全てを飾れれば、嘘でもそれで構わない。そうすれば──」

真鍳の目が一瞬笑いを溶かして、鋭く光った狂気をたたえる鮫の目に変わる。
真鍳「───『君の嘘は、絶対に超えられなかった事実を超える』」

颯太、初めて感情を剥き出しにする。身を乗り出して真鍳の襟を掴む。
颯太「馬鹿にするな。僕たちは確かにお前と一緒かも知れない、でも──」
颯太「そんなやり方で──そんな薄っぺらい、付け焼き刃みたいなやり方で、人の心を揺さぶれる訳がない!」

真鍳は目を静かに閉じ、指をくるりと回して。
真鍳「<解錠>。さあ、これで、君の作ったものは動き出す」
くくくく、と笑う真鍳。
真鍳「『承認力』なんてまだるっこしいもの、関係なく、ね?」

颯太、その言葉の意味に気付いて呆然とする。真鍳は再び人を小馬鹿にした様な笑顔に戻る。


249/真鍳「颯太君。一生懸命なのは好感度高いけどさあ、一生懸命なだけじゃあ、ねえ。世の中、努力じゃなくて結果だよ?」
颯太「......どうして......」
真鍳「マガネちゃんの『言葉無限欺』はね、言葉が定義する全てをねじ曲げちゃう、わくわくマッシブな能力なのだ。そしてそれは、キミがやろうとしてる事柄も例外じゃないのだよね」
颯太「築城院、なんで......僕に手を貸したんだ?」

立ち上がって、スカートのシワをぱんぱんと延ばす真鍳。
真鍳「ん? なにが?」
真鍳「マガネちゃんはねー、面白いコトが好きなだけ。折角生きてるなら、力の限りエンジョイしなくちゃ、なのだよ」

颯太、慌てて真鍳の袖を掴んで。
颯太「築城院!」
颯太「君の能力はアルタイルと対等だ、僕らの側に着いてくれれば、僕らは絶対勝て──」

真鍳「やなこった」

真鍳は颯太の目を見る。口元は相変わらず嗤っているが、目は全く笑っていない。死んだ様な空虚な目付きに、颯太は彼女が怪物である事を思い出す。はっ、と手を離して後ずさる颯太。

真鍳、再び薄く笑う。
真鍳「そ。真鍳ちゃんは面白いことしか、興味ないないよ? これでキミ達が勝てるかどうか、とか、世界がどーこーなるか、なんて、そんな事、超どーでもいい。でもねえ颯太君」

真鍳、邪悪な笑みを浮かべる。
真鍳「キミの考えてる事がうまく行ったときの──アルタイルがね、どんな可愛い顔をするか、ちょっと見てみたくなったのだよねえ。そう思ったら止まらなくって、止められなくって。ま、そう言う事でね、ちょっと遊んで見る気になったのだよ。平たく言えばそーゆう訳なのです。くふふふふふ」

颯太、眉根を潜めて真鍳を睨む。
颯太「築城院......君はやっぱり、この世界にいちゃいけない......化物だ」
真鍳「かもね。真鍳ちゃんは、これと同じ」

真鍳、もう一度パイライトを胸元から出して振る。


250/真鍳はまた、悪戯っぽく笑いながら颯太に語りかける。
真鍳「さあ颯太君。──どうして私は、これと同じだと思う?」

ふふん、と笑って。
真鍳「ま、ボーナス問題だから。構えなくっていいよ」

少し唸って、颯太は絞り出す様に答える。
颯太「──これ自体に価値はない。でも、これは──人の価値を照らし出す。そうだよね、築城院さん」

真鍳、嬉しそうに目を見張り、指を鳴らす。
真鍳「ご明答! 颯太君のさあ、そういう察しのいい所がマガネちゃんのお気に入りだよ!うっふっふ、打てば響くってのはホントーに気持ちいいねえ!」

ぶらんぶらん、とパイライトのペンダントを揺らして語る真鍳。
真鍳「そ。例えば本物の黄金ってやつ、パソコンの部品に使ったりもするけどさあ、正直キレイな以外の価値なんてないのに、なんでかみんな、すごい価値があるって思い込んでるんじゃあないのかなあ? それは価値がないと困っちゃう人達の、都合なだけじゃあないのかな?」
もう一度催眠術の振り子の様にそのパイライトを振る。
真鍳「じゃあ仮に......金の価値を認めなかったとして、今度はこの子に別の価値が生まれるかって?」

少し怒った様に、わざとオーバーな言い方をする真鍳。ちちち、と指を振って。
真鍳「駄目だよ駄目駄目! それじゃあ馬鹿げた価値観を、ただ単にひっくり返しただけ。取れないブドウが酸っぱいって言ってるだけのさもしい行為、マガネちゃんは嫌いだな」
颯太「そう。君は、どっちも──どうでもいい」
真鍳「もっちろん。守る物があるなんて願い下げ、マガネちゃんはそんなの、重っ苦しくて大っ嫌い。私がこれを気に入ってるのは」

目の前に翳してにたりと嗤う真鍳。
真鍳「おばかさん達が一喜一憂、こおんな下らない物の為に死んだり生きたり争ったりするのが、超見てて幸せ感じる瞬間な訳なのだね。それはねえ、本物の黄金で生きたり死んだりするよりも、もひとつ輪をかけて、アッタマ悪いじゃん? 超笑えるよね!」

くっくっく、と笑う真鍳。
真鍳「それが人。それこそ人。私はだから、人が好き。颯太君、君達の気持ちは私が一番共感出来るって言った意味、理解してもらえたかな?」

観覧席の手すりに持たれ、下のステージからの派手な逆光に照らされて人らしからぬ風貌になっている真鍳。三日月の様な口を見せて笑う。

颯太は暗澹たる気持ちで真鍳を見る。しかし前回と違い、真鍳は少し微笑むと首からそのペンダントを外して颯太の首に掛ける。抱きしめる様な構図の真鍳。颯太はあっけに取られる。真鍳は颯太の耳に吸血鬼の様な唇を寄せて囁く。
真鍳「お客さんと私を楽しませておくれなのだよ、マガネちゃんの願いとしては」


251/ぽん、と颯太の背中を叩く真鍳。観覧席後方の通路に抜ける扉へ去っていこうとする。

颯太は振り向いて。
颯太「──この世界は、矛盾した法則を許さない。君の存在だって、きっとそうなる」

その言葉にぴたりと止まる。
真鍳「うっふっふ。そうかな? どうかな?」
真鍳「──ここはマガネちゃんのいた、ライトノベルの世界じゃない。サカガミ君もいない。ついでに言えば──」

嗤う真鍳。くるり、と振り返る。
真鍳「ここは、物語の外側だよ?」
真鍳「キミはここの人間だもの、私の言いたい事、ようく解ってると思うのだけれど。君達はさ、いつだって勧善懲悪を書きたがるよね。正しい者は正義を通し、悪が栄えた試しなし、ううん、かっこいい!!」

鼻で笑って颯太の反応を眺める真鍳。再び続ける。
真鍳「現実では、そんな事ありえないから、だからキミたちは何かに願う様に書くんだよ。

そうだね? 颯太君」

くくく、と嗤う真鍳。
真鍳「ここじゃあ悪は死なないし、滅びもしない。だから真鍳ちゃんだって残念無念、滅びないのよさ。有り難い事に作者は死んじゃって、サカガミの馬鹿もここにはいない。良かったあ、ワタシの方が人気あって! みんなやっぱ、よく解ってるよね!」

にこり、と笑う真鍳。睨みつける颯太。
真鍳「──さてさて颯太君。確かにキミの言う通り、世界に弾力があれば私の能力は駄目になるかも知れないね? でもでも、ワタシはそもそも嘘吐きなのだよ。そしてこの世界は、嘘を吐く程度ならいっくらでも許容してくれる。汚い事も綺麗な事も、美しくも無惨な事も、おおらかでなんでもありの、この素晴らしき世界はね」

そういって柔らかく笑う真鍳。狐の様な笑みは、どこか死の様な美しさを持っている。

ささやくように颯太へ語る真鍳。
真鍳「だからだね、私の能力──『言葉無限欺』が消えた所で、掛けなきゃいけない手間が増えただけ。でもそれは、マガネちゃんにとっては楽しい課題! 人生にチャレンジ出来る事が残ってるというのはね、こりゃー生きる甲斐もあるってものですよ? とゆうわけで、私はこれからだって変わらず、幾らでも世界をねじ曲げる事が出来る。いくらでも──望む時に──望む形にねえ? うっくっくっく」
そこまで言ってから、手をぽん、と叩いて。
真鍳「お、そうだ」
真鍳「最後にもう一つ。折角だから釣りも返しておかないと」

颯太は身構える。溜め息を付いて頭を掻く真鍳。
真鍳「まあー......大した事もないコトなんだけど。あの不良少年の文楽人形、あれ、もう飽きちゃってさあ」
颯太「え? それは──」

真鍳は薄く笑って颯太を見ている。颯太は言っている事の意味に気付く。

真鍳がもう一つのプレゼントを渡そうとしている事に、苦笑する颯太。
颯太「──嘘だ。君は板額を、手放さないだろ」

呆れた様に笑う真鍳。肩を竦めて。
真鍳「うっふふ。打てば響く。いいもんだねえ」
真鍳「と、いうわけで」

モニターを指指し笑う真鍳

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