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9 september

9月4日

9月4日

   

292/アルタイル「星河ひかゆ」

アルタイルのドラム式マシンガンが消え去り、先程とは打って変わった粗雑さでひかゆの首を掴み、持ち上げる。苦しげにうめき声を上げるひかゆ。
アルタイル「闘えぬ君を嬲り殺すのは、私の──いや、私の物語の意図する所に反する。ここで起きている全ては、余の為の脚本。そして、見る者総ての、楽しみの為の脚本だ」


293/イベント内で流れるモニター、群衆が見ているモニターの中でも、その光景が展開されている。固唾をのんで見守る観客達。皆一様に成り行きに緊張しているが、その緊張の中には「笑み」も混じっている。面白い物語を待ち望んでいるかの様に、コロッセオの剣闘を見守る観客の様な笑顔だ。

同じ様にCIC内でも、その様子を見ているメテオラ。その表情は、別の意味で固い。


294/アルタイルがにこりと笑い、言う。
アルタイル「君には『傍観者』の席を割り振ろう。君は自分の無力を噛み締め──何の役にも立たず、どうにも出来ず、ただ世界の終わりまで見据えるがいい。その身を以て、無念さを我が観客に伝えるがいい。それは物語にとって、実に豊潤な彩りだ」

弥勒寺が憤怒に駆られて木刀を振り翳し、アルタイルへと飛びかかるが、アルタイルの首筋に木刀の切っ先が触れるか触れないかの刹那、サテライトのサーベルが三方から弥勒寺の動きを封じる様に威嚇する。身動き出来ない弥勒寺。
弥勒寺「趣味の悪ィ女だぜ、このイカレ野郎。そんな力が使えるんなら、どうして俺達の力も消さねえ? 

いや、俺達自体を消し去らねえ! てめえにゃ、それが出来る筈だ!」

ブリッツが拳銃を構えたまま、呻く様に呟く。
ブリッツ「──彼女は、そんな事はせんよ。何故なら我々は──」

CICのメテオラに画面切り替わる。メテオラが話を引継ぐ。
メテオラ「彼らは、今や『鳥籠』の中でアルタイルが描くシナリオの『登場人物』だ」

菊地原、その言葉の意味を理解してはっとする。
菊地原「なんですって」


295/CIC内、メテオラ。逆光で照らされたメテオラの表情が険しく耐える様に歪む。

菊地原がその様子を見て、呻く。
メテオラ「アルタイルは状況を全て把握して、自らを演出している......自身の『承認力』を上げる為」
メテオラ「私達は『承認力』を手に入れ、その力を持ってアルタイルに対抗しようとした。だが、アルタイルも条件は一緒、彼女はそのシステムを逆手に取った。――いや、最初から計算づくだったのかもしれない」
メテオラ「今やシナリオを操っているのは私達ではない──アルタイルだ」

握りこぶしに力を込めるメテオラ。
メテオラ「『鳥籠』は、もう彼女を閉じ込める為の牢獄ではなくなった......彼女の『承認力』を加速させる為の、ブースターだ」


296/サーベルに挟まれながら、身じろぎ出来ない弥勒寺がアルタイルを睨みつけながら呟く。
弥勒寺「てめえの脚本? いつまでもテメエが、俺達の鼻面引き回せると思ってんのか。翔もブリッツもこっちにいる、あのロボット乗りはセレジアが片付けた。てめえはもう、丸裸だ」

じゃり、と翔が救出の機会をうかがう。

アルタイル、その言葉を聞くと、ふふふ、と忍び笑いを漏らす。
アルタイル「丸裸? その通り。だが、何か問題が?」
アルタイル「余に、そして君達に必要なのは何だ。相手を打ち倒す為の腕力か。そうではない、『承認力』だよ、君。そして」
アルタイル「この『鳥籠』では、一挙手一投足を、普(あま)く観客達が注視している。『承認力』の増大に、これ以上適切な装置はない。そうだろう? メテオラ」

その声が会場のディスプレイに、動画配信のモニターに映し出される。

興味津々でモニターを見る観客たち。同時配信の様子を見る視聴者たち。

CICのメテオラ、悔しさに顔をしかめる。手元に浮かぶゲージがアルタイルへ味方するかのように、じりじりと上がっている。
アルタイル、手を広げて滔々と語る。
アルタイル「元より余にとって同士たるは、神代の世界に騒乱を起こし法則の御柱を揺るがす為の武器。世界の軛を壊すには、常識の埒外で騒乱を起こせば良かった。その為の素材があればあるだけ良い。しかし、メテオラと君達が注意深くそれを防いだが為に──いささか手勢が足りなかった」
アルタイル「しかし......『承認力』を得る為の収斂(しゅうれん)装置が存在する今となっては、もはや必要のない代物だ」
アルタイル「『承認力』が、同士の代わりを担ってくれる」

アルタイル、サーベルで弥勒寺を弾く。宙を飛ぶ弥勒寺。

隙を伺っていた翔に向けて、ひかゆをぶんと投げつける。悲鳴を上げるひかゆ。

その刹那、拳銃を発射するブリッツ、しかしアルタイルは神速の動きで周囲を回るサーベルの一本を抜き取る。それはマスケット拳銃付きサーベルで、ブリッツの拳銃を弾き飛ばす。

ひかゆを受け止めアルタイルを睨む翔。
翔「糞がッ!」

アルタイル、手の中でくるりとサーベルを回し、余裕の仕草で首を傾げる。
アルタイル「さあ、興を切らすな。観客を楽しませろ。それが『承認力』の増大に繋がる」

歯ぎしりする弥勒寺、翔、ブリッツ。


297/CIC、松原が額に思い切りがん、と拳を打ち付ける。驚く中乃鐘、八頭司。顔をあげる松原。
松原「メテオラ、奴の言う通り、『承認力』は上がってるのか」

トレーサーの数値がメテオラの瞳を照らしている。
メテオラ「......アルタイルだけではなく、『鳥籠』内の全ての『承認力』は上昇し続けている。観客は現状、アルタイルのシナリオを肯定し、その推移を見守っている」

決意の籠った目でメテオラを見返す松原。
松原「それなら、やれるな?」

その言葉にハッとするメテオラ。
松原「やろう。シナリオ的には隠し球を撃つのに、もってこいのタイミングだ」
まりね「今ですか!?」

中乃鐘、頷く。
中乃鐘「大丈夫、ここまでの前日譚で、ちゃんと伏線は張っておいた。その為の、あの徹夜作業だったんだから」

メテオラも頷く。
メテオラ「皮肉だけれど、確かに現界可能値、それに承認力も値を超えている。これ以上、確たる機宜は望むべくもない。マツバラ殿の言う通り」

頷く菊地原。
菊地原「終幕準備、状況をSI現界に移行します」


298/崩れ落ち、機動を停止したギガスマキナ。操縦席の灯は暗くなり、モニターも緊急用が幾つか反応しているに過ぎない。目を覚ます鹿屋。身体を動かそうとすると激痛が走る。
鹿屋「......どうなったんだ、僕は......セレ......ジア......」

セレジアの最後を思い出す鹿屋。はっとする。
鹿屋「そうだ......セレジア......くそっ!」

操縦桿に拳を叩き付けた後、忸怩たる思いに顔を伏せる。暗い操縦席内に三次元ディスプレイが灯り、通信が入る。
菊地原「こちらCIC。鹿屋君、聞こえますか」

慌てて通信へ返答する鹿屋。
鹿屋「こちら鹿屋......セレジアは......」
菊地原「把握しています。でも悼むのは......総てが終わってからです。そうでなければ、彼女の戦いは無駄になる。鹿屋君、ギガスマキナに施した特別術式は、まだ使用可能ですね?」
鹿屋「一部は使えない、攻撃系はもう駄目だ」
菊地原「必要ありません。今からメテオラが術式を展開します、残った動力を顕現型ペンタグラムに回して下さい。動かせますか?」

鹿屋はそれを聞きながら動力をもう一度起動させる。
鹿屋「回るよ、でも──」
菊地原「主導権が向こうに渡っている今、もはや猶予はありません」
――操縦席の灯が再び点灯し、モニターに命が宿る。壊れたギガスマキナの身体に、術式の文様が浮かび上がり、レイラインの光が流れていく。


299/CICのメテオラ。「万理の書」を静かに捲り。
メテオラ「我、顕現を促す。寸陰は千載へと繋がるべし。久遠の流転は韻によって貌を為す。永劫の険嶺を超えし珂雪に魂魄(こんぱく)を生じるべし、それは牛宿(いなみぼし)の名を冠し──」

ギガスマキナを中心としてペンタグラムが浮かび上がり、ぐるぐると回転し始める。回りの光景が一瞬歪む。ビットバグとノイズが人の形へと再構成され、魔法陣の中央に浮かび上がる白い光が、人の形を型作っていく。その姿に、息を呑む鹿屋。
鹿屋「──SI......松原さん達が創ってたのは......これだったのか......!」

ゆっくりと振り向くその姿。それはアルタイルにそっくりだ。


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