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9 september

9月9日

9月9日

   

333/アルタイル、倒れて動けない翔を僅かに見遣ると、ブリッツに目を戻す。
アルタイル「ブリッツ」
アルタイル「出来れば娘御と......一緒にいて貰いたかったがね。仕方がない」

ブリッツ、緊張に冷や汗を流しながら。
ブリッツ「仕方がないだろう。二度娘を殺す訳には、いかんのでね」
ブリッツ「銃を向けておいて言う台詞じゃないが、出来れば君と闘いたくはない」

ゆるりと立つアルタイルに、照準を合わせ続けながら。
ブリッツ「理由は二つ。君の様な娘さんを撃つのは私の矜持に反する事、そして、闘っても勝てる気がせん事だ。出来れば考え直してくれないか」

首を振るアルタイル。
アルタイル「君達は世界と共に終わる。君を送り出した時に、いや、総てが始まったときから、それは約束されていた。それは──残念ながら、揺るがぬ事項だ」
アルタイル「だからこそ、余は君と娘御の最後を、安らかなれと願ったんだよ」

振り切る様に顔を上げるアルタイル。

最前まで浮かべていた侮蔑の笑いはなく、決意の様なものが漂っている。


334/アルタイルとのやり取りを、息を詰まらせて見ている鹿屋。スロットルを握ったまま、身じろぎ出来ない。そこに、通信が入る。

CICのメテオラだ。
メテオラ「鹿屋くん、まだ動力は残っていますか」
鹿屋「ああ。でも、闘える程残ってない。せいぜい、みんなを担いで逃げるくらいが関の山だよ」
メテオラ「ペンタグラムを発動します。準備を」

ペンタグラム、と聞いて不信感を露にする鹿屋。
鹿屋「なんだって? SIは失敗した、もう僕らには何も残ってない筈だ」

CICのメテオラにカメラ戻る。
メテオラ「......最後の藁の一掴み。もしこの術式を発動して何も起きなければ、私達はその時こそ、世界の終わりを受け入れる局面に向き合わなければならない」
メテオラ「──この藁が、剣になる事を祈るしかない。それは奇跡に比類する願いだけれど」


335/サーベルを鳴らし、屹立するアルタイル。再び風がごう、となびく。

回りを見ると、一部の景色にノイズが入り、それは雑音を上げながら揺らいでいる。

所々のビルや高架が、全然違う景色にすり替わったり、再び戻ったりを繰り返している。

ひかゆ、不安げに回りを見回して。
ひかゆ「なにこれ......綻び?」


336/CIC、観測していた士官Bが菊地原に振り向く。
士官B「磁界変動、再び観測! 54SUE88234823を軸点に浜離宮、東京駅、外苑にも反応! まだ微弱ですが、複数箇所で変動観測。増えます!」

覗き込む菊地原。モニターに観測結果が流れていく。

菊地原、ぐっと息を詰まらす。

メテオラ、素早く詠唱台の前で幾つかのインジケーターに手を走らすと、それらを確認し、再び魔導書を開く。
メテオラ「......ノガヒエル、アチェリア、ソコディア、ナンガリエル四聖の御名の元、百群の星々は雷響(らいきょう)の轡(くつわ)を鳴らし顕現(けんげん)を促せり......」


337/アルタイル、ノイズの走る周囲の状況を眺めやる。
アルタイル「綻びが大きくなり始めたね。最後の道行を共にしよう。観客達は待っている」
ブリッツ「君の無敵ぶりをかね?」

首を振り、静かに返答するアルタイル。
アルタイル「我が愛しき観客達が欲し求めているのは──私の強さなどでは、ないよ」

笑いは浮かべていない。極めて真面目に、真理を語る様に呟くアルタイル。
アルタイル「足掻き、信念と義のために力を尽くして戦い、そして倒れ伏してゆく君達の姿......それこそを観客達は望んでいる」
アルタイル「だって、それこそが──物語じゃないか」

ブリッツ、観念した様に銃を取り上げる。薬莢を足下に落し、新しい銃弾をシリンダーへ送り込む。溜め息をつき。
ブリッツ「仕方がない。最後に残ったのが、こんな老いぼれ一匹とはね。物語としてなら、シリウスがやられた所でファンファーレを鳴らしてもらいたかったよ」

翔が起き上がろうとして、激痛に身をよじる。
翔「おっさん......ぐうッ......くそっ!」
ブリッツ「座っていたまえ。とても任せろとは言えんし、私はそもそも『主人公』ですらないのだが......役割を振られたのなら、仕方がない話だ」

ラッチを上げ装填を完了させて、アルタイルを睨む。

サーベルを片手に、ただ睨み合うアルタイル。
アルタイル「──ブリッツ、君で最後だ。物語が終結すれば、恐らくこの『鳥籠』を支えている概念は喪われ、崩潰する」
アルタイル「この『鳥籠』は卵。崩潰は孵化と同じ。それで余の悲願は成就と相成る。世界の軛は溶け落ち、数多の物語世界は衝突し、総ては無に帰する」

アルタイルの頭上にはタイマーの目盛りのように、十重二十重(とえはたえ)に刃物が回転と静止を繰り返している。その数は一回転するほどに増え、どんどんと大きくなる。
アルタイル「それは、美しき大団円だ」


338/ひかゆが血まみれの弥勒寺を膝に抱いて、静かに言う。
ひかゆ「これが物語なら、......もう、大団円を迎えてます」
ひかゆ「だって、そうでしょう? あなたは多くの難関を越えて、あなたを阻もうとする、並みいる敵を倒して......そして最大の強敵すらも倒して、好きな人の為に、その約束を果たすんだもの」

悲しそうな顔をしてアルタイルを見るひかゆ。
ひかゆ「たぶん、──皆が選んだ主人公は、私達じゃない。それは、あなただったのよ」

アルタイル、目は騎兵帽の陰に隠れて見えない。


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